サイバー戦争が始まった(23) 幼児見守りカメラからの声

※本記事はフィクションであり、事実ではありません。
※本記事はこの電子書籍の続編です。他のストーリーをご覧になりたい方はこちらをご覧ください。

そのとき、なんだか誰かの声が聞こえたような気がした。

「なんだ、窓の外の誰かがなにか喋っているのが聞こえているに違いない」

最初はそう思ったのだが、声は室内から聞こえてくる。

2歳ぐらいの子供というのは、なにをするかわからない、ということで、欧米などでも「Trouble 2」と言うくらいで、それは日本でも同じだ。同時に、この時期は独り歩きにも慣れ、言葉を喋り始める頃でもあり、子供が一番可愛い時期でもある。しかし「親がちょっと目を話した隙に」という事故も絶えない。0歳の幼児であれば、ベビーベッドの周辺を「監視」しておけばなんとかなるが、2才児ともなると、片時も目を離せない。どこにでも行けるところに行ってしまう。好奇心の塊、という感じだ。

そこで、わたしたちの家では、0歳から使っているベビーベッド用の室内監視IPカメラを、部屋の天井近くの棚の上に上げ、室内がカメラから見渡せるようにした。カメラは家で使っている無線LANから、インターネットに接続され、そこから私たち親のスマートフォンに映像が流れる。子供は当然両親のどちらかに見守られているのだが、子供の近くにいないほうの親が外出しているときに、外から部屋の様子を見られるようにしておいたのだ。同じこのカメラで、外出したときにマンションの部屋の鍵がちゃんとかけてあるか、などもわかる。その棚の上から、玄関まで見渡せるようになっているからだ。

そのカメラについているスピーカーから声がする。

耳を澄ませてよく聞いていると、どうやら親が他の部屋にいるときに、子供に話しかけているようだが、親には内容はよくわからない。親の目が離れたときに、子供に話かけているように感じたが、カメラの故障ではないか?と、そのカメラを販売店に持っていったが、特に問題はないようだったので、そのまま使い続けた。


子供も大きくなり、小学校に入る時期になった。息子の亮太が入学式の校長先生の式辞の前で直立不動になって、新しい生活に目を輝かせている。その姿を見ると、親の目から自然と涙が流れてきた。周りを見ると、自分たち以外にも、同じようにハンカチで目を拭っている人がけっこういる。「子供もここまで大きくなったのだ」という気持ち。そして、これから子供が社会に出ていくまでにしなければならない、これからのこと。嬉しいと思うと同時に、自然と握った拳に力が入っているのがわかった。

「ここまできた」

父親がそうつぶやくと、母親が言った。

「これからよ」

そうだ、これからだ、と、父親は思った。心の中でその言葉を繰り返した。「これからだ」と。


亮太が学校生活に慣れたある日、学校から電話があった。

「亮太くんですが、なんだかおかしなことを授業中に言うのです」
「なにかあったんですか?」
「亮太くんが、このところ、なんだかそわそわして、6月1日の朝は学校に来ないから、と言うんです。ご家庭でなにかありましたか?」
「6月1日といえば、もう来週ですよね。いや、特になにもありませんが。。。。6月1日、ってなにかあるんですか?」
「実は。。。。」
「前から決まっていたんですが、父兄の方にはまだお話をしていませんでしたよね。これは警備上の問題があって、お話できなかったんですが、実は総理大臣が学校にいらっしゃいます」
「ええ?なぜですか?」
「実は現総理は、校長の幼馴染なんです。そこで、在任中に一度は子供たちを見に来てくれ、ということになりまして。なにしろ、校長も来年3月で定年ですから」
「しかし、それは準備も大変でしょうね。お察しします」

話はそこで終わった。しかし、6月1日。なにがあるのか?私はなんだか不吉なもやもやしたものを感じた。


5月31日。晴天。気温もちょうどいい。子どもたちは、翌日やってくる総理を迎える行事の予行演習をしていた。いや、しているはずだった。私も妻も職場にいたので、その予行演習のことはわかってはいたが、出席できない、と、担任には伝えてあった。

警備は厳重を極めていた。一週間くらい前から、SPが学校に出入りし、下駄箱から天井裏、砂場まで学校の全ての施設に不審なものがないかを金属探知機なども使って調べていた。当然だが、前日の5月31日になっても、不審なものは学校に見つからなかった。

5月31日、お昼ごろに学校から仕事中の私のスマートフォンに電話があった。

「亮太くんがみつかりません。家に帰っていませんか?」

え?と私は半信半疑で聞いた。

「学校のどこを探しても、亮太くんがいないのです」
「あ、いました。いました。いま、私の目の前に来て挨拶してから、校長室に行きました」

電話を片手に、息子の無事をほっとした気持ちで聞いた。

学校から帰ってきた亮太に聞いたところでは、登校途中に友達と道端に白いスマートフォンが落ちているのを発見して、いろいろいじっているうちに登校時間になり、バツが悪くてなかなか学校に行けずにウロウロしていたが、その時一緒にいた友達が「やっぱり学校に届けよう」と言ったので、お昼近くになって、やっと学校に行き、担任の先生に落とし物のスマートフォンを届けようと職員室に行ったが、担任の先生は電話中だったので、校長先生のところに、落とし物を持っていったのだという。その後は亮太は元気に予行演習に参加し、その日の学校を終えたのだという。

「明日ね、ソーリが学校に来るんだって。日本の国の偉い人だから、目の前に来ても足踏んだりしちゃいけないって」
「で、ソーリって、偉いのか?」
「日本の国で一番えらいんだって」
「そうか、そんな偉いんだ」
「うん。だから、明日は靴はきれいなほうを履いていく」
「いいよ」

「ところで、今日スマホ拾ったんだって?」
「うん、拾った」
「で、どうした?」
「少しゲームで遊んでたんだけど、やっぱり学校に行こう、ってことになって校長先生の部屋に置いてきた」
「なんだ、ゲームしてたから、時間食っちゃったのか。校長先生はいたかい?」
「明日のれんしゅうでいなくて、机の上に置いてきただけだよ」
「で、学校に行くことにしたのはどうして?」

なんだか、それを聞く必要があるんじゃないか?と直感して、聞いてみた。

「どっかできいたおじさんの声で、スマートフォンから声がしたの」
「どっかで聞いた声?どこできいたんだ?」
「よく思い出せないけど、ぼくがもっと小さなときに聞いた声」
「今でもちいさいじゃないか。で、その声はなんて言ったんだ?」
「学校にすぐに行って、校長先生のところにこのスマホを届けなさい、って」
「それで校長先生のところに行ったのか」
「うん。なんだかその声の言う通りにしないといけない気分だったよ」
「そうか、それは良かった」

親としては、ちゃんと学校に行ってくれたことがよかった、という感じだったわけだが。


翌日、6月1日。晴天。総理を迎える学校とその周辺には朝から警備の警官の列がものものしく並んでいて、私たち父兄も仕事を休んで学校に向かった。学校の門では親である証明をする、学校が発行した「身分証」を出す必要があったので、それを忘れずに持っていったことは言うまでもない。証明書はPTAの行う地域パトロールのために作ったものだった。

朝10時。総理が黒塗りのクルマからSPに囲まれて降りて、校門を通って、校舎に入り、校長室に入った。そして5分くらいしただろうか。そのとき、校長室で「バンッ!」という音がしたかと思うと、校長室から煙が出た。校長室の窓が割れて飛び散ったのが、校庭の反対側にいた私たちにも見えた。総理を狙った爆弾テロだ。誰もがそう思った。見れば、隣にいる父兄の一人がスマートフォンをかざして動画を撮影していた。その場でFacebookに映像を上げていた。


「臨時ニュースを申し上げます。本日午前10時5分ごろ、東京都渋谷区立XX小学校で爆弾テロがあり、総理大臣とSP3名、学校の和田校長と三田副校長が死亡、周辺で警備していたSP、教員数名が病院に搬送され、現在意識不明の重体です。学校、及び警察は数週間前からこの学校への総理訪問について把握しており、厳重の上にも厳重な警備体制を敷いていただけに、警察関係者はショックを受けています」

 


公衆無線LANあれこれ

このところ、公衆無線LANのお世話になることがけっこうあるのだが、いろいろなところで様々なタイプのものにお目にかかる。一番多いのは、まず、アクセスポイントに接続して、任意のWebページをアクセスに行くなどすると、全く違うページに誘導され、そこにメールアドレスを入れる欄があるので、そこに自分のメールアドレスを書き込むと、そのメールアドレス宛てにメールが届き、そこに書いてあるURLにアクセスすると、公衆無線LANが使える、というタイプだ。

あるいは、最初LTE/3Gだけでつなげておき、メールをあるアドレスに送ると、アクセスコードを送ってくるので、そのアクセスコードをコピーし、LTE/3Gを切ってWi-Fiに接続して、なんでもいいからどこかのWebをアクセスすると、それがリダイレクトされてアクセスコードを入れるページが出てくるので、そこにアクセスコードを入れて、はじめて、公衆無線LANが使える、というものもある。

このタイプで一番問題になるのが、無線LANに接続する前の段階で、どうやってメールの送受信やWebページのアクセスをするか?ということだ。当然、インターネットに接続される前だから、スマホなどだと、無線LANを使うわけにはいかない。要するに、クルマのキーをクルマの中に置いてあるんだが、クルマには鍵がかかっている、という状態である。こういうときは、しょうがないので、一度無線LANの接続を切って、携帯キャリアのLTE/3Gなどの回線でインターネットに接続し、メールを送信・受信する。その受信メールで得た「アクセスコード」をコピーしてから、再度無線LANに接続し、公衆無線LANの申し込みページの当該欄にアクセスコードを入れて、無線LANをONにしてもらい、すぐに、LTE/3Gのキャリアの回線を切る、という面倒なことをしなければならない。ドトールコーヒーなどの「Wi2premium」なんかは、この方式だ。つまり、無料無線LANに接続するために、事前にLTE/3G回線が別に必要になる。

そのあたり、都営バスの無線Wi-Fiは良く出来ていて、最初の接続のときに、数十分だけ、なんの手続きもせずに、インターネットに接続してくれているので、そのあいだにメールの送信と受信で、アクセスを取得すると、その後も延長して無料のWi-Fiが使える。つまり、Wi-Fiだけしかインターネット接続ができないタブレットやPCでも、無料Wi-Fiの恩恵に預かれる。ただ、惜しむらくは、バスに乗っている時間というものそのものが案外短く、10分もすると、降車の時間になったりして、長時間乗ることがない、という。。。。

また、最近のスマートフォンは、Wi-Fiで以前接続したことがある無線LANアクセスポイントが出現すると、現在のLTE/3G回線の接続を勝手に切って、優先的にWi-Fiに接続してしまう。そのため、バス通りの近くのコーヒーショップでLTE/3Gでメールとかをしているとき、突然つながらなくなったりする。しょうないので、大事な通信のときにはあらかじめ無線LANは切っておく。

なにかと便利に使わせていただいている「公衆無線LAN(Wi-Fi)」だが、「使いこなす」には、けっこう高度な知識が必要だったりする。

 


Raspberry-Piの使われ方

Yebisu/Tokyo

Yebisu/Tokyo

最近はどこでも「ラズパイ」とか「Raspberry-Pi」とかっていう、高性能の小型のCPUをARMにした裸のボードコンピュータが流行っている。かく言う私もIoTの専門家ですから、それぞれの世代ごとに数個持っていたりする。IoTの試作品開発向け、という感じだったのに、最近は、なぜかどんどん消費電力が上がり、CPUのスピードが速くなり、全然IoT向けじゃなくなってきた感じがある。5千円くらい、という手軽な値段もあって、どうやら、安価なパソコンとしてこれらのコンピュータを買っている人がけっこう多くなったんじゃないかと思うのだ。いや、それはそれで悪いとは思わないのだが、CPUがARMだし、OSはGUIは付いているものの、Linuxだし、と言うことで、いや、一部Windowsもあるよな、とか思いつつ、でも、そういうのって、なんかビンボ臭くないですかねぇ、とか思うのだが、いや、そういう使い方もあり、ということで、それはそれでいいんじゃないかと、とも思うわけですよ。

実際、Raspberry-Piやそれに類するボードコンピュータを組み込んでノート型のPCのようにして使えるキーボードとディスプレイとポインティングデバイスのついたものも売りに出されていて、これがなかなか綺麗なので、1つ買ってみようかなー、とか思ったりもする。そんなに高くないしね。

しかし、ノートPCとしてラズパイを使う、というのは、まぁ、その、なんだ、本流じゃないよなぁ、という思いもあるわけで。

 


現代のネットの仕組みと選挙

昨日土曜日日までの「選挙戦」の街頭演説の熱狂や、途切れることのない選挙カーのスピーカーの音は、投票日の日曜日の今日は朝から聞こえない。静かなものだ。このしばらくをふりかえれば、仕事であちこち都内を飛び回っていたものの、選挙演説には全く遭遇することはなかった。職場で仕事をしている人は、とてもじゃないが、選挙演説をじっくりと聞くなんていう、そんなヒマはない、という感じだったのではないだろうか?結局、今日の選挙当日になったり、あるいは、台風の襲来を予想しての事前投票を間際になって行った人が多いだろう。そういう人の「誰に投票するか」の情報の拠り所は、どうしても、現代であれば「ネット」にならざるを得ない。テレビは選挙の番組をしていない時間に当たれば、候補者の政見放送を見ることもできない。新聞はあるが、新聞をじっくり読む時間もないうえ、候補者が出揃った直後の新聞なんて、もう手元にない、なんてことも多いからだ。

しかも、今回の選挙は最初から物事が動くスピードが速く、週刊誌も日刊の新聞も状況に追いついて行くのがやっとで、週刊誌は完全にそのスピードに追いついていなかった、というのが、私が見ている限りの現実なんだね。結局、政党の離合集散や新党の出現と台頭、衰退などが短い時間に起こり、このスピードはネットでなければ追いつけなかった、ということだろうな。

今日の投開票日は朝から雨が強い。稀に見る大型台風が来るという。しかし、朝一番で行った投票所はかなりの人がいた。いつもと雰囲気が違う。また、一昨日から昨日まで、「事前投票所」が、この日の台風来襲を考えてか、長蛇の列。こういうのも、これまで見たことのない光景だった。

ところで、忙しい現代人が投票のための情報で頼りにしている「ネット」やネット上の「SNS」、検索エンジンは、実は「公平」ではない。Aさんが見ている検索結果の画面と、Bさんが見ている検索結果の画面は違う。また、Aさんが見ているSNSの画面とBさんが見ているSNSの画面も違う。あなたが良く見る「候補者」の画面も、実は他の人が見ているとは限らない。

インターネットのビジネスの多くは「広告」であって、それを見る側の人の「好み」などを、裏側で、その人の良く見るホームページなどの情報を元に分析して、データベース化している。そのデータベースを元に、一人ひとりに「違う情報」を見せている。これは広告のためのシステムなのだが、このシステムにより、たとえば、政治的にリベラルな考えを持っている人には、そういう候補者や政党の広告が出てくるし、政治的に保守的な考えを持っている人には、そういう候補者や政党の広告が出てくるようになっている。更に、手の込んだことに、そこに、ちょっとだけ閲覧者の持っている考えとは違う「広告」もスパイスのように入れる。こうやって、自分が見たいと思う情報を、閲覧者は手に入れ、それを見せる側はその情報にクリックさせることによって、広告費用を稼ぐ。そして閲覧者はそれらの情報を見て「世の中は自分の思う通りの方向に進んでいる」という快感を得ることにより、閲覧者をよりネットの情報に引きつけ、PCの前やスマホに見入る時間を増やす工夫をしている。

簡単に言えば、あなたがネットで見ている「社会の情勢」は、あなたの思いが反映されたものであって、他人も同じものを見ていると思ったら、大きな間違いなのだ。つまり、ネットで見える世界が全てだと思っているとしたら、大きな間違いであって、それはあなたの思いに最適化された、あなたしか見ていない世界なのである。

しかしながら、現在のこの時点ではこういったネットの仕組みは複雑すぎて、余り広くは認知されておらず、「テレビやラジオの延長のようなもの」と思っている方が多いだろう。当然、選挙管理委員会とか、役所ではそういうことは考えてもいないだろう。しかし、ネットの情報とはそうやってあなたのために「作られた(個人的に取捨選択された後の)」情報であって、見ているものが人それぞれに違うのだ。

ネットの技術は日進月歩で進化している。それはどうやったら広告会社が儲かるか、という原理によっている。しかも「パーソナライズ」されており、ネットにアクセスする全ての人が同じ情報を同じように見ているわけではない。

ネット社会の情報リテラシー。それはこういうことも理解しておくことでもあったりする。

 


サイバー戦争が始まった(22) 自動運転車

※本記事はフィクションです。事実ではありません。
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自動運転車が日本で普及を始めたのは、法律で65歳以上の自動車の路上での運転には、自動運転車が義務付けられてからだ。それまで、日本国政府は、国内で頻発し、マスコミも多く報道するようになった、高齢者の運転ミスによる、家屋への飛び込みなどの事故に悩まされていた。それだけではなく、世界的に自動車販売が伸び悩み、日本の自動車産業も「次の市場」を求めて、「運転ができなくなった高齢者」「免許を持たない人々」を相手にせざるをえなくなったからでもある。2017年現在、日本の成人で自動車の運転免許を持っていない人は成人の2割以下しかいない。そして、運転免許を持っている人のほとんどがクルマを運転するのは言うまでもない。日本国内のみならず、先進国のクルマの市場は飽和しているのだ。高齢化社会・人口減少の起きている日本の社会では、新市場を開拓する、というのは、こういうやり方をせざるを得ない。

とある夏の暑い日のこと。春日部の家の父と娘。娘夫婦は父親の家にいるのだ。東京の夫婦の家は終日だけ仕事のためにいて、週末は私たち娘夫婦が揃って春日部の父親の実家に戻って、ゆっくりするのが、この家の毎週の習慣だった。父親の仕事は某労働組合団体の役員だ。毎日、この春日部に組合のクルマが迎えに来る。このところ、父は騒がしい政治の中心で、なにかと話題になることが多かった。テレビでも顔を見ることが多い。国会は某国との「開戦派」「開戦慎重派」に分かれて大論戦中だったが、父は「開戦派」の急先鋒で、当事者の国会議員よりも多くテレビで顔を見ることが多かった。某国にとっては、父は「目の上のタンコブ」と言ってよかった。

「近くのコンビニにアイスクリーム買ってくるよ」
「お父さん、私、しばらくしたら、みんなの買い物に行くから、私のクルマ使わないでね」
「大丈夫だよ。お父さんのは自動運転車のほうで行く。今日が誕生日で65歳以上になったからね。自動運転車を使わないと、警察に捕まっちまう」
「わかったわ。気をつけて行ってらっしゃい」

父は返事を語る間もなく、家の駐車スペースに行き、この日のために買っておいた最新型の自動運転のクルマにキーを差し込んだ。すると、クルマが喋りだした。

「この前乗られたのは、私を買ったばかりの一週間前でしたよね」

父親はそれに答えて、クルマのダッシュボードに語りかけた。

「そうだ。あれから、乗らなくてすまなかったな。これから近くのコンビニに買い物に行く」

「近くのコンビニというと3軒ありますが、どれですか?」

と、クルマのダッシュボード上のカーナビの画面が明るく点灯し、そこに近所のコンビニの所在地を示すマーカーがついている地図を表示した。カーナビも「老眼用」のカーナビで、画面が少々大きくなっている最新型だ。老眼でも、運転しながらでも地図が確認できる。もっとも、この自動運転車で彼自身が運転するのは、緊急時に限られていて、おそらく年に数回もないのではないかと思われた。

彼はカーナビの画面の1軒のコンビニのマーカーを人差し指でぽんと指定し、

「ここだ」

と指定する声を出した。

父はまだ表舞台で仕事をしているのだが、昨年、脳梗塞を患って軽い左半身不随が今も治らない。同時に大好きだったお酒もやめたので、最近は甘いものばかり食べている。特にアイスクリームが好きで、コンビニチェーンのアイスクリームは全て知っている、というくらいの「コンビニ・アイス・マニア」になってしまった。毎日、仕事のないときは、自宅でコンビニのホームページをアクセスしては、新しく入荷したアイスクリームをチェックしている。私たち家族には「お父さん、女子高校生みたい」と笑われている。

「新しいやつが入荷したらしいから、それが欲しいんだ」

自動車はそれに答えて言った。

「わかりました。春日部の北地区のコンビニ:XXマートに向かいます。買うものはXXアイスクリーム。これでいいですね?いま、コンビニに問い合わせたところ、入荷しているのを確認しました」

父は満足げに答える。

「OK。行っておくれ」

父を乗せた電動の自動運転車は音もなく、滑り出すように自宅の駐車場を出て、家の前の公道に入った。そのまま、大通りに出た。

ふとそのとき、自動車の動きが変わった。急旋回し、なんと反対側の車線に反対向きで走ろうとした。このままでは事故が起きるのが必至だ、と判断した彼は、クルマのキーの真下についている赤い「自動運転解除ボタン」を押した。しかし、ときはすでに遅く、彼のクルマは対向車線の真ん中で土砂を満載した大型トラックに正面衝突。トラックの運転手は無事だったが、華奢な彼のクルマはひとたまりもなく、路肩に跳ね飛ばされ、そこでクルマが止まったが、クルマの状況は「ぺしゃんこ」と言ってよかった。もちろん、彼は即死。一瞬の出来事だった。


まさかの元気だった父親の葬儀。その葬儀の日、私は父の霊前で、全く知らない人に声をかけられた。

「XXさんの娘さんのXXさんですね。警察のものです。こんなところでなんですが、当時の状況をお伺いしたく、参りました。すみませんがどこか他の方の目の無い場所はありませんか?」

「わかりました。奥に控室に使っている父が使っていた書斎があります。そこでお話をしましょう」

私は警察の人にいろいろ聞かれたが、当日の様子といえば、父が自動運転車を買って使った、という程度しか自分は知らないし、それしか話せなかった。警察の人はその話だけ聞くと、言った。

「お父様の事故のあったクルマをしばらく預からせていただけませんか?どうもおかしな点があるだけでなく、お父様のお仕事の状況からして、不審な点もないではありません」

父親が政治的に微妙な立場にあることは、娘の私も承知していたので、その場で答えた。

「わかりました。十分に調べていただければと思います。なにかわかりましたら、教えてください」

簡単な「お悔やみ」と、「御霊前」の封筒、そして名刺だけを置いて、警察の人たちはその場を去った。


それから2か月もたっただろうか?季節はすっかり涼しくなっていた。警察から電話があって、わかったことがあったので、是非お話をしたい、と、名刺をもらった警察の人からの電話があり、私は警察署に向かった。

「いろいろわかりました。お父様の事故ですが、自動運転車のコンピュータのハッキングによるものです」

IT関係の仕事をしている私には、意外ではなかったものの、「やはり」と言う感じもあったので、詳細を聞こうと思った。が、目の前の警察署の人が言うほうが早かった。

「これから、担当官を呼びます。詳細をお話をいたしますが、このことは外部には一切口外なさらないよう、お願いします」

「わかりました」

答えるが早いか「担当官」は部屋に入ってきた。「担当官」は歳は40歳は過ぎているだろうか。警察署には似合わないジーンズ、黒いシャツにジャケット。季節は冬になっていた。その「担当官」は会釈し、挨拶をした。

「まずは、お悔やみを申し上げます」

格好からしてもちょっと場違いな感じではあったが、礼儀正しい人であることはわかった。

「お父様の自動車は、自動運転車として昨年末に発売されたXX社製のXXですが、コンピュータの開発を手掛けた下請けの会社が、もとの自動車会社に断り無く、X国出身のエンジニアを使っていました。日本人エンジニアを使うよりも優秀な技術者が多く、コストが安く作れるからです。しかし、X国は、現在、国会で我が国と開戦するかどうかで問題となっているY国の友邦です。お父様の日本での立場はおわかりですね。毎日、テレビを見られていると思いますから。私どもが事故にあったお父様のクルマを調べたところ、このクルマのソフトウエアに、バックドア(ソフトウエアの裏の侵入口)が仕掛けてあるのが発見されました。インターネット経由でお父様のクルマのコンピュータにバックドア経由で入り込み、現場でお父様を見張っていたY国のエージェントが、お父様が自動運転を使うタイミングを知らせ、外部からクルマのコンピュータに侵入、クルマのコントロールを奪い、一瞬にしてお父様のクルマを反対車線に誘導した、ということです。おそらくこのストーリーで間違いありません。聞いたところによれば、奥様も働いていて、IT企業にお勤めとのことですから、このあたりの詳細の話はわかりますよね。いま、私たちは、お父様を常に見張って、お父様が自動運転車を使うタイミングを知らせたエージェントの行方を追っていますが、まだ見つかっていません」

私は驚きに声もなかった。小さく、

「そうでしたか」

と言って、警察署を出た。

私は、葬儀が終わって静かになった家に戻り、一人、Y国の大使の一人に暗号化されたメールを送った。

「作戦完了。ただし、日本の警察はクルマのソフトウエアのバックドアを発見した模様」

その頃、警察署の中が騒がしくなった。捜査課長が号令をかけていた。私の自宅の監視がされていたのだ。

「おい、やはりあの娘だ。すぐに任意同行しろ」


ビジネスはスピード

日本ではこのところ、総選挙に伴って「政局」が毎日コロコロと変わる。場合によっては、数時間で全く状況が変わってしまう。ついさっき、駅のKIOSKで先週までは注目されていた某党の女性党首のインタビュー記事を目玉にした「週刊誌」のバナーが目に止まった。曰く「本気で政権を奪う」。が、先週の最初くらいには、この党は破竹の勢いでいたのだが、既に選挙まで2日になったこの時点で、この党は「勢いを失った」という大方の評価となってしまった。「週刊誌」だから、おそらく、先週のうちに今週の状況やその先の状況を考えて、次に出る号はこの記事が売れるだろう、と、目玉記事を考えておき、それを週間予定で出していく。しかし、そのスピードでは全く時代の流れに遅れている。そんな世の中になったんだなぁ、というのが、KIOSKの週刊誌バナーを見たときの最初の感想だった。

他にも、先週はあった大きなお金の動くビジネスの話が、今週になると完全に状況が変わってしまった、などというのは、最近はしょっちゅうだ。その度に、数時間で物事が動く、このスピードで仕事をしている人と、週間とか月間を単位として仕事をしている人の「差」が大きく開いていく。そういう場面を非常に多く見るようになった。

その点でも、電話は全くビジネスに使えなくなってきた。忙しく仕事をしている人ほど、電話してもその人が席にいないなんてのは当たり前。本人の携帯電話に電話しても、話し中とか電波が届かないとか。そういうことが多すぎるので、さっさと「相手が忙しくて電話が取れないときでも、こちらの意思が正確・確実にできるだけ早く届く:メール」とか、あるいは「ショートメッセージ」を使うことが非常に増えた。電話は効率が悪くなった。

たとえば、ビジネスの電話をして、そのことについて「今なら10分ほど時間があるのでいらっしゃいませんか?」という人であれば、ビジネスは先に進む可能性が高いが、「来週X曜日の午後X時に」となると、かなり先の話になるので、そのときにはもう状況が変わっていたりする。遅いのだ。それを聞いただけで「あ、こりゃだめだな」と思ってしまう。当たり前のことだが、ビジネスでは「先手必勝」であって、数秒の遅れが命取りになる。これはいい案件だと思ったら、今、連絡をとって、今、アポを用意して、いま、交渉に入る。このスピードがないといまやビジネスはできない、と言ってもいい。のんびりした時代ではないのだ。

韓国の大学教授をして韓国にいたとき、夜の飲み会でキャッシュカードを上着から抜き取られたことがあった。夜、家に戻ってからそれに気がついて、翌朝一番で銀行に身分証明書などを持って行ったら、ものの15分ほどですべての手続きが終了した。旧カードの使用停止、新カードの発行と認証。そして、銀行からの帰り際にSMSが自分のスマートフォンに飛んできて「旧カードは使用停止になりました」などのメッセージが来た。このスピードはすごい、と思った。こういう場合、日本の銀行では、慎重にも慎重に手続きがあり、キャッシュカードの再発行は1週間くらいかかることが普通だ。

 

KRACK(無線LANの乗っ取りをされるかもしれない攻撃)へのエンドユーザーでの対処

日本でも、10月16日くらいから騒がれはじめた、無線LANを乗っ取られるかもしれない問題。この問題へのユーザーの対処は以下のようにする。

  1. WPA2はそのまま使い続ける。
  2. OSなどのアップデートが数週間のうちに来るので、アップデートしておく。
  3. なるべく電波が外部に届きにくい5GHzの無線LANを使う。

基本的に、WPA2暗号化は、本日現在で一番強固なセキュリティであることに変わりはないので、まずそれを使うこと。WEPなどでは、やはり弱い。そして、メーカーなどが出すOSやハードウエアのセキュリティ・パッチを待つ。また5GHzの無線LANを使うことにより、電波が届きにくくなり、部屋の外などへの無線電波の漏洩を防ぐ、などは効果的だ。